重症患者への栄養管理

※栄養療法の基本を学びたい人に

※基本的には日本版重症患者の栄養療法ガイドラインをベースに記載しています。まとめるに当たって、どうしても筆者の経験や独自調査、独自解釈の影響が出ていますので、より詳細に知りたい方は上記ガイドラインを参照していただければと思います。


重症患者への栄養投与の必要性

重症患者では代謝や異化の亢進が生じやすく、病態に応じた早期の栄養管理が重要となるが、それを評価する明確な基準はない。病態を理解し適切と思われる方法を模索していくしかないのが現状である。

栄養投与の方法

基本的には、可能であれば経静脈栄養より経腸栄養を選択する方が感染症になりくいとされる。
特に、誤嚥のリスクがある場合には十二指腸からの投与の方が肺炎のリスクの低下や栄養投与量の増加などのメリットがあるとされる。ただ、いずれの投与法も死亡率には影響を与えない。
できれば治療開始から24時間以内、遅くとも48時間以内に可能な限り経腸栄養を開始すると良い。
なお、腸管の蠕動運動が無いことは経腸栄養を開始しない理由とはならないことに注意(蠕動運動がなくても経腸投与しても良い場合が多い)。

栄養管理について

カロリーについては、栄養投与量は間接熱量計を用いるか、計算式に基づき算出するが、急性期の初期1週間は,エネルギー消費量よりも少なく投与するとよい。その具体的な方法については定まっていないが、経腸栄養に関しては以下のような説がある。状況に応じて自分が正しいと思う方法を選択すること。

低容量経腸栄養 消費エネルギー量の25%、または500kcal以下を1週間継続する方法。栄養補給というよりは腸管免疫の維持などを目的としている。
軽度エネルギー制限投与 推定消費エネルギーの60~70%を目指す。軽度の飢餓による代謝の改善や交感神経の賦活を目的としている
標準投与 少量の投与からステップアップし、最終的には推定エネルギーの100%を目指す方法。一時的な腸管機能の低下を踏まえ、機能回復に合わせて投与量を増やすという考え方。問題があれば投与調整すればよいので、腸管に過剰な負担を掛けないメリットや、refeeding syndromeを生じにくいといったメリットがある。
消費エネルギー投与 最初から推定エネルギー量の100%を投与し、問題があれば減らす方法。エネルギー負債が極力抑えられるメリットがある一方、腸管に過剰の負担をかける可能性がある。特にBMIが25以上など、栄養状態が良好であれば、この方法を選択するメリットに乏しいと思われる。

蛋白については、BMIが30未満の場合、1.2〜2.0 g/(実測体重)kg/day消費されるが、急性期にカロリーを少な目に投与する場合はある。ただ、重症患者では異化の亢進が予後に影響を与えるため、可能なら多めに投与した方が良い可能性もある。これについては明確に示すRCTがなく、はっきりしていない。

脂肪の投与について明確な基準はないが、脂肪乳剤については0.1〜0.2g triglycerides/kg/hrまで。投与量は0.7〜1.5 g/kg/dayを超えないようにすることが推奨されており、経腸栄養ができておらず経静脈栄養が10日以上行われている場合のみ投与することとされている。

ビタミン、ミネラル、微量元素については投与が推奨されている。また、リン・マグネシウム・カリウムについてはモニターすると良いとされている。特にセレンは経静脈栄養剤がなく、長期のTPNを行っている際には注意が必要である。エネーボはセレンが豊富なことで有名。

経静脈栄養

経静脈栄養について今のところ統一した見解はない
現在の所ガイドラインでは「初期1週間に経腸栄養が20 kcal/hr以上投与できれば,目標量達成を目的とした静脈栄養を行わないことを弱く推奨する。」となっている。
すなわち、初期1週間において20 kcal/hr以上の経腸栄養が投与できない時、補充のために経静脈栄養を行い、経腸栄養の増加に伴って経静脈栄養を減らすべきであると言う意味だと考えられる。
※カロリーの補充については初日から行って構わないと思われるが、投与栄養量については意見が対立しており、明確な基準はない。高カロリーになると感染リスクが増大するので注意が必要である。また、ブドウ糖単体での投与は避けるべきとされている

なお、経静脈栄養に用いるカテーテルは特に交換期限がもうけられておらず、臨床的に問題がないのであれば定期的に交換する必要はない。

経腸栄養についての補足

経腸栄養については消化態栄養であっても半消化態栄養であっても大きな違いはない。
また、持続投与が推奨されている。チューブは胃内の場合は残量測定を行うために太めのチューブを、十二指腸の場合には誤嚥を防ぐために8Fr以下の細いチューブを使用する。

疼痛や腹部膨満感の訴え、理学所見、排ガス・排便、腹部X線写真をモニタリングし、大きな異常があれば投与を見合わせる。下痢が多い時には食物繊維の投与を考慮しても良い。
胃内残量は500ml以上にならない限り中止しない。
大幅な増量は有害となることが知られており、状態に限らず慎重に増量することが推奨されている。

誤嚥を防ぐために、経腸栄養を行うすべての気管挿管患者は頭側を30~45°拳上することが推奨されている。誤嚥性肺炎を防ぐという意味では口腔内ケアを行うことも重要である。
誤嚥のリスクが高い場合には十二指腸までカテ先を進めるか、メトクロプラミドやエリスロマイシンを投与することが推奨されている。

なお、長期間の経腸栄養になるからといって胃瘻を作ることは推奨されていない。

特殊症例における栄養管理

上記内容が基本であるが、場合によっては特殊な管理が必要となることもある。
・循環動態が不安定な場合
大量輸液をしている場合や、カテコラミンの増量が必要となる場合など、循環が不安定な場合には経腸栄養の開始によって血液分布容積の増加により低血圧や腸管虚血を生じる可能性がある。その場合は経腸栄養を48時間以降にするか、10~20ml/hrなど、低用量で開始すべきである。

・重度熱傷
広範な熱傷がある場合にはエネルギー消費量が非常に増大している可能性がある。その場合には30kcal/kgなど、大量に影響を投与することによって予後が改善したとする観察研究もある。

・ARDS or 敗血症
炎症を抑える作用のため、n-3系脂肪酸(EPA)、γリノレン酸、抗酸化物質質(βカロテン,ビタミンC,ビタミンE,亜鉛,セレン)を強化した経腸栄養剤の使用を考慮しても良いとされている。

  • 最終更新:2017-03-16 12:07:17

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