誰でもできる全身麻酔

※麻酔科研修で必ず持って欲しい一冊です


※このサイトは要点のみを記載するようにしています。きちんと勉強するには成書を参照することを強く勧めます。
※麻酔法は施設によって異なります。基本的には自分の施設の方法に従ってください。このページは「研修医だけど少しでも麻酔法を学びたい」「麻酔科医のバックアップがない病院で麻酔するように言われたけど方法がわからない」などの悩みを持つ方向けに作成した超簡単麻酔マニュアルです。当然麻酔科医は勘と経験を使いつつ、もっと厳密な管理をしています。この麻酔法で「抜管まで時間がかかった」「術後十分な鎮痛ができなかった」などのある程度の不具合があることは覚悟してください。このページの麻酔法で問題が起こってもページ作成者は決して責任を取りません。


術前管理

目まぐるしく変化する手術中と違い、術前の準備には時間を取ることができます。
まずは術前管理のページを参照してください。

術前の準備

当然麻酔器があることは前提です。看護師やMEがやってくれる施設もありますので、その場合には省略しても構いません。
準備についてはまず麻酔の準備ページを参照してください。

★薬剤
薬剤はまず以下のものを用意すればよいでしょう。

・フェンタニル(50μg/ml):2mlアンプルと5mlアンプルがあるのに注意。麻薬性の鎮痛薬。
・レミフェンタニル(粉、生食で0.1mg/mlに溶解):2mgなら20mlに、5mgなら50mlに溶解する。麻薬性の鎮痛薬。
・ロクロニウム(エスラックス)50mg/ml:1A 5ml、非脱分極性筋弛緩薬。
・1%プロポフォール(ディプリバン) 20ml:10mg/ml。2%もあり、使用する時は投与量が半分になることに注意。50mlバイアルもある。鎮静薬。
※禁忌がある場合や循環に異常がある場合、導入薬の違いのページを見ながら薬剤を調整してください。ここではプロポフォール前提で説明を続けます。
・エフェドリン:アンプル内は40mg/mlだが、必ず生食などで計10mlに伸ばす。α、β受容体に作用する昇圧薬。
・ネオシネジン:アンプル内は1mg/mlだが、0.1mg/mlに伸ばすこと。1mgと5㎎のアンプルがある。α受容体に作用する昇圧薬。
・スガマデクス(ブリディオン):200mg/2mlのバイアル。ロクロニウムの拮抗薬。
※以下の吸入麻酔を最低一つ
・セボフルラン:気化器がある時のみ使用可能。必ず溶液が入っていることを確認する。
・デスフルラン(スープレン):気化器がある時のみ使用可能。電源が入っていることを確認する。中身がない場合には補充する。

★輸液
輸液は細胞外液を点滴1本分用意します。糖の有無のどちらがいいのかは議論がありますが、慣れない人は気にしなくてもよいです。

ビカーボンやフィジオ140、ビカネイトが使いやすいですが、無い場合はラクテックなど外液系のリンゲルを用意しましょう。ただし、腎障害が強い時や高K血症の時は1号液にするなどの配慮が必要です。
点滴は大きいリスクあるもの大手術でなければ1本で構わないでしょう。怪しい時は点滴を2本に増やしAラインなどを作ります(そんな大手術がある病院はきちんとした麻酔科医がいると思いますので、ここでは詳述しません)。

導入

まずは導入のページを参照してください。慣れない時は必ずrapidを選択しますが、緊急手術でフルストマックの場合は迅速導入を選択せざるを得ない時もあるかもしれません。

導入ページにある薬剤の「麻酔薬の投与」のところで以下の薬剤を以下の順に加えます。
※高齢な場合やリスクが高い時は特に鎮静薬の種類の選択や鎮静薬を半分程度に減らすなどの工夫が必要です
※()内は50kg換算量です。大きなリスクがない場合はとりあえず()内の量の投与にしておいても大抵何とかなります。

フェンタニル 2μg/kg(原液で2ml) 咳を誘発する可能性があります。
1%プロポフォール 2mg/kg(原液で10ml) 必ず1%であることを確認。投与時血管痛があります。マンシェットと同側で血圧測定中に投与するとプロポフォールが血管内に滞留して激痛になるので注意しましょう。その時は血圧測定を止めるようにしましょう。
・その後、声掛けしても意識がないことを確認し、マスク換気ができることを確認してから吸入麻酔(セボフルラン3%、デスフルラン5%)開始する
ロクロニウム(エスラックス)1mg/kg投与(原液で50mg) 教科書的には急速導入0.6mg/kg、迅速導入0.9mg/kgですが、覚えやすさと使いやすさ優先で敢えて1mg/kgとしています。

→ロクロニウム投与後、急速導入なら2分程度、迅速導入なら60秒待って挿管してください。
※ロクロニウム投与後呼吸が止まり、換気や挿管が困難になった場合はDAMガイドラインに沿って対応する必要があります。また、スガマデクス(ブリディオン)200mg投与すれば筋弛緩が拮抗され呼吸が戻る可能性があります。

維持

※鎮痛、筋弛緩は体重が30kg程度以下になるような極端なやせの人には投与量を半分くらいに減らしましょう。

★麻酔の三要素
鎮静:セボフルラン1.5%またはデスフルラン5%に設定し、そのまま触りません。セボフルランは残量がなくなってもアラームが鳴らないので、残量には常に注意しましょう。手術終了が近づいたらoffします。
鎮痛:レミフェンタニル3ml/hr程度で流し、フェンタニルを手術開始直前から30分ごとに1回1ml(50μg)bolusします。血圧とHRが上昇するようならさらに1mlだけbolusします。手術終了が近づいたら追加投与を避けましょう。
筋弛緩:30分に1回1ml(10mg)bolusし、手術終了が近づいたら追加投与を避けましょう。フェンタニルと一緒に投与するようにすると楽です。

★バイタル
※基本は維持ページのバイタルの項目参照です。簡単な原則だけ書いておきます。これらの薬剤で対応できない時はノルアドレナリンやイノバン(場合によってはボスミン)などの使用を考慮しますが、ここでは記載しません。必要なら循環管理についてのページを参照してください。

HRが持続的に下がる時 緑内障がなければ硫酸アトロピン1A(0.5mg)投与
HRと血圧が両方低い時 エフェドリン4~8mg投与(10mlに伸ばして1~2ml投与)
HRが高く血圧が低い時 輸液、急速に昇圧したい場合はネオシネジン0.1mg
HRの低下が遷延している時 エフェドリン4~8mg投与(10mlに伸ばして1~2ml投与)
HRが急速に低下している時 ネオシネジン0.1mg
HRと血圧が両方上昇 フェンタニル1ml bolus。あるいはレミフェンタニル増量。
バッキング エスラックス1ml(10mg)投与。

手術が終了したら

通常通り抜管と退室を行うことになります。
抜管の項目を参照してください。

ダイジェスト(50kg、急速導入)

※当日チェックを入れていくと抜けなくできます。麻酔チャートは適宜入力、バイタルも問題が出てから適宜調整
□ 前日 術前回診
□ 当日 術前の準備
□ 入室後 モニター取付(心電図、血圧計、SpO2モニター)
□ ルート確保
□ マスクで酸素投与
□ フェニタニル2ml、1%プロポフォール10ml投与
□ 10秒後くらいに入眠確認し吸入麻酔開始(セボフルラン1.5% or デスフルラン5%)
□ マスク換気ができることを確認し、エスラックス5ml投与
□ マスク換気開始
□ 2分後に挿管し、カフに空気を入れる(4ml程度)
□ 両肺換気の確認をしながら挿管チューブの固定をする
□ 酸素を1L/minに、空気を2L/minに設定する
□ 輸液量を1秒1~3滴に固定、以下適宜調節。
□ アイパッチをし、必要なら胃管を入れ、バイトブロックをする。
□ 体位などを整える
□ 手術開始直前 エスラックス1ml フェンタニル1ml投与 レミフェンタニル3ml/hrで開始
※以下、手術終了が近づいたら「手術終了直前」まで移動
□ 手術開始30分後 エスラックス1ml フェンタニル1ml投与
□ 手術開始60分後 エスラックス1ml フェンタニル1ml投与
□ 手術開始90分後 エスラックス1ml フェンタニル1ml投与
□ 手術開始120分後 エスラックス1ml フェンタニル1ml投与
□ 手術開始150分後 エスラックス1ml フェンタニル1ml投与
□ 手術開始180分後 エスラックス1ml フェンタニル1ml投与
□ 手術開始210分後 エスラックス1ml フェンタニル1ml投与
□ 手術開始240分後 エスラックス1ml フェンタニル1ml投与
□ 手術開始270分後 エスラックス1ml フェンタニル1ml投与
□ 手術開始300分後 エスラックス1ml フェンタニル1ml投与
…(以下繰り返し)…
□ 手術終了直前(30分以上程度目安) エスラックスとフェンタニルは追加しない、レミフェンタニルoff
□ 手術終了後 他の準備が終わり抜管できるタイミングまで待つ
□ 抜管の準備が整ったら 酸素6L/minにし、吸入麻酔off
□ 気管内吸引を行いつつ、バッキングがあることを確認。
→その他、筋弛緩が解けているサインがなければセボフルラン0.5%、デスフルラン1.0%にしサインが出るのを待つ。
□ 筋弛緩がある程度溶けているのを確認した ブリディオン100mg投与
□ 口腔内吸引
□ 人工呼吸器offし、自発呼吸の出現を待つ
→なかなか呼吸が出ない場合やSpO2が下がる場合にはたまに換気をし、酸素化と吸入麻酔のoffを
□ 人工呼吸器off状態で「換気回数8回以上」「換気量300ml以上」「呼名に反応あり」を確認する
→条件を満たさない時は気長に待つ。呼名に反応がある状態で換気回数が明らかに少ない時はレバロルファン1mg投与
□ カフからエアを抜いてもらう
□ 抜管
□ 口腔内吸引
□ 呼吸がきちんとできているかを確認
□ 従命の確認
□ 5分以上様子を見てバイタルなど問題なければ退室

  • 最終更新:2018-06-22 18:05:22

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