術後せん妄

※術中術後のトラブルで慌てないために



診断基準

A.意識状態がやや悪くなっており、集中することができない。
B.記憶や見当識、言語に障害が認められる。
C.数時間から数日の間に出現し、1日のうちでも症状に変動が認められる。
D.病歴や身体所見、臨床症状から身体疾患の可能性が低い。
※A~Dを全て満たす場合、せん妄と判断される。

概要

せん妄とは何らかのストレスや薬剤、器質的な疾患などの影響により見当識障害が生じる状態です。
手術の後に生じるせん妄を術後せん妄と言います。
ただし、一般的な精神疾患と同様にわかっていない点も多く、そのため対策も立てづらいのが難点です。予防するための麻酔法についてもコンセンサスが得られていないのが現状です。

注意点

① リスク因子からせん妄が疑われる場合には予測する必要がある

せん妄にはリスク因子があり、予めある程度の予想を立てておく必要があります。

☆既往としてのリスク因子
過去のせん妄の既往、高齢、脳器質的疾患、認知症、薬物依存、鬱病、統合失調症、甲状腺機能異常、感染症(特に中枢に移行するもの)

☆身体的なリスク因子
外的ストレス因子:手術侵襲、麻酔による感覚の変化、安静臥床、見慣れない光景
内的ストレス因子:手術への不安、睡眠障害
麻酔管理要因:低酸素血症、術中の微小梗塞、脱水、痛み、電解質異常、低血糖、貧血
薬物要因:オピオイド、ベンゾジアゼピン系、プロポフォール、抗コリン薬、ドパミン、ステロイド、H2ブロッカー、筋弛緩薬

② 予防的な麻酔法を心掛ける

予防するための麻酔法が明確に記載されている文章を見付けることはできませんでした。以下は管理者が術後せん妄のリスクを避けるために心掛けていることですが、根拠には乏しいので参考程度にしておいてください。
意見がある方はコメント欄に投稿していただければと思います。

・リスクの高い患者は精神科にコンサルトする
特にリスクが高い患者は予め精神科にコンサルとしておくと良いでしょう。
投与薬剤の指定やせん妄時の病棟への指示があるとせん妄の対策がしやすくなり、それに伴ってリスクも低減することができるようになります。

・可能なら硬膜外麻酔併用の麻酔法にする。
オピオイドも痛みもせん妄のリスクとなりますので、硬膜外麻酔併用でオピオイドの量を減らしながら鎮痛を行おうという考えです。
脊椎麻酔は循環血液量の急激な低下と下肢の感覚変化、下肢運動不能による安静臥床などのリスクがあるため、それ自体でせん妄が誘発されることがあります。術中のせん妄が出現した場合には安全のために薬剤で対応するかデクスメデトミジンで鎮静します。

・鎮静が必要ならデクスメデトミジンを用いる。
プロポフォールやミダゾラムはせん妄のリスクとなりえますが、デクスメデトミジンは比較的リスクが低いとされています。

・輸液は十分に
微小脳梗塞や脱水がせん妄のリスクとなりえます。全身状態を見て十分な量の輸液を行うようにしましょう。

・薬剤の種類と投与量をできるだけ減らす
上記のように麻酔薬の多くはせん妄のリスクになり得ます。薬剤の種類と量はできるだけ少なくするとよいでしょう。

③ せん妄が生じた場合の安全管理

せん妄が生じるとカテーテルや点滴、ドレーンの抜去や転倒転落による骨折が生じやすくなります。可能ならチューブやカテーテルは見えないようにしましょう。

見やすい時計やカレンダーの設置、普段使っている眼鏡や補聴器を使い、規則正しい生活をすれば改善することもあります。

危険であると思われる場合には、薬物療法や鎮静、抑制の判断や精神科へのコンサルトなど対策をする必要があります。

④ せん妄に対する薬物治療

まずは器質的な疾患を除外する必要があります。
器質的な疾患でないと考えられる場合には薬物療法を考慮します。
なお、A.B.Cでは全ての薬剤が、α遮断作用があるためボスミンとの併用禁忌。また、薬効を強化するため抗てんかん薬の一部(バルビツール系)の併用禁忌となっております。Dは問題ありません。

A 内服ができない時
・ハロペリドール(セレネース注):5mgを緩徐に静注または点滴投与、あるいは筋注。1日2回まで。QT延長を生じる可能性があるため、リスクのある患者には慎重投与。

B 液体なら内服できる場合
※必要ならAの薬剤も使用可能
・リスペリドン(リスパダール内用液):初回は1回1mgを1日2回。徐々に増量し2~6mgに漸増。12mlが上限。
・ハロペリドール(セレネース内服液):初回1日0.75~2.25m。徐々に増量し1日3~6mg。QT延長を生じる可能性があるため、リスクのある患者には慎重投与。


C 内服可能だが興奮を伴う場合
※必要ならA,Bの薬剤も使用可能
・クエチアピン(セロクエル):第一選択。初回1回25mg、1日2、3回。徐々に増量し1日投与量150~600mgを2、3回に分けて内服。上限1日量750mg。糖尿病患者に禁忌。
・リスペリドン(リスパダール錠):初回は1回1mgを1日2回。徐々に増量し2~6mgに漸増。12mlが上限。
・ハロペリドール(セレネース錠):初回1日0.75~2.25m。徐々に増量し1日3~6mg。QT延長を生じる可能性があるため、リスクのある患者には慎重投与。
・ペロスピロン(ルーラン):初回1回4mg1日3回。徐々に増量し1日12~48mgを3回に分ける。上限1日48mg。
オランザピン(ジプレキサ):初回5~10mgを1日1回。維持量1日1回10mg。上限1日量は20mg。糖尿病患者に禁忌。

D 内服可能だが興奮を伴なわない場合
※以下で効果がないなら抗A,B,Cの薬剤も考慮。
・トラゾドン(レスリン):初回1日75~100mg。上限1日200mg。一部のHIV阻害薬(サキナビル)と併用でQT延長を生じるため禁忌。
・ミアンセリン(テトラミド):初回1日30mg。最大1日60mg。1日1回夕食後か就寝前に内服。MAO阻害薬との併用で昏睡を生じる可能性があるため併用禁忌。

E その他の薬剤
※術後せん妄に対する保険適用はありませんが、効果がある可能性が指摘されているものです。全体に副作用が弱く、非専門医でも安全に使用できるタイプのものです。
ラメルテオン(ロゼレム):1回8mgを眠前に投与。メラトニン受容体作動薬。ただの眠剤であり、その中でも副作用が最も弱いとされているもの。
スボレキサント(ベルソムラ):1回20mgを眠前に投与。オレキシン受容体拮抗薬。ラメルテオンと機序は異なるものの原理が似ている眠剤。副作用は少ないとされている。
抑肝散:1日7.5gを2~3回に分けて食前または食間に内服する。漢方系の鎮静薬。

  • 最終更新:2017-03-15 17:06:47

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