肥満

※合併症麻酔に一歩深い知識を



分類

※肥満学会基準
BMI<18.5 低体重
18.5≦BMI<25 普通体重
25≦BMI<30 Ⅰ度肥満
30≦BMI<35 Ⅱ度肥満
35≦BMI<40 Ⅲ度肥満
40≦BMI Ⅳ度肥満

概要

一般的に肥満の基準はBMI25以上とされていますが、麻酔ではBMI35以上になって初めて重症加算がされます。
肥満による合併症や肥満の原因となる疾患の有無、および呼吸管理、肥満による薬剤の調整や蓄積など、気を遣う点は非常に多いです。

注意点

① 肥満に関する合併症に注意

高度な肥満がある場合には背景に何らかの疾患がある可能性もあります。また、肥満それ自体も動脈硬化を促進し、合併症を作る可能性があります。肥満を見た場合には背景疾患や合併症などについて常に念頭に置いて術前検索をする必要があります。
特に麻酔のリスクとなるものに関しては、術前検査でこれらのリスクがないかを確実にチェックするようにしておきましょう。合併症がある場合には各合併症に準じた対応が必要となります。
また、合併症がない場合でも深部静脈血栓症に対しては術後に対策する必要があります。

★肥満の原因となる疾患
クッシング症候群、甲状腺機能低下症

★肥満より生じる可能性のある合併症
高血圧、高脂血症、高尿酸血症、2型糖尿病、虚血性心疾患、脳梗塞、脳出血、睡眠時無呼吸症候群、脂肪肝・NASH、変形性質関節症、逆流性食道炎、深部静脈血栓症

② 気道・呼吸系のリスクが高い

肥満患者では機能的残気量、呼気予備量、肺活量が全て低下している一方で、closing volumeは変化しないため、SpO2は下がりやすく、無気肺が生じやすくなっている。導入時には十分な酸素化を行う必要性が有る一方で、術中には高めのPEEPが必要となることが多い。
また、舌根沈下が生じやすい上、咽頭組織への脂肪沈着によりガスの通りが悪く、挿管時の視野も得にくいことが多いため、マスク換気困難、挿管困難の合併のリスクが高くなりやすい。さらに、輪状甲状膜も同定しにくく、マスク換気困難であっても輪状甲状膜穿刺は施行しにくい。
そのため、以下の用意をして以下の手順で挿管に臨むようにしましょう。

★念のため用意するもの
ラリンギアルマスク:挿管困難+マスク換気困難の時。DAMガイドライン参照
ビデオ喉頭鏡など:マックグラスやエアウェイスコープなど。初めからこれらを使用しても良い
緊急外科的気道確保器具:どうしても換気できなかったときのために必要。
経鼻エアウェイ:術後酸素化不良の時

★挿管、術中管理、抜管の基本的な手順
① 術前投薬としてガスターを投与:誤嚥性肺炎のリスクが高いためガスター 20mgを麻酔導入の2時間以上前に内服するようにしましょう(水分制限のため)。点滴投与でも構いません。
② ヘッドアップ後酸素化:25度の頭高位を取ることで肺が膨らみやすくなり、操作時間が稼げます。背中の脂肪の分、頭が低くなりがちなので、枕を高くしても良いでしょう。
③ 迅速導入を行うor意識下挿管:フルストマックの定義が今一つ明確にはなっていませんが、高度肥満の場合には誤嚥のリスクを考慮しフルストマック扱いにすると良いとされています。なお、緊急手術の場合には意識下挿管も考慮すると良いでしょう。なお、挿管が難しい時にはためらわずマスク換気を行うようにしましょう。エアウェイは必ず用意しておくと良いでしょう。
④ 術中はhigh PEEPに:SpO2や血液ガスを見ながらPEEPは高めにかけましょう。
⑤ 抜管は完全覚醒してから:通常の抜管時にはある程度呼吸状態が改善すると抜管することが多いと思いますが、肥満の場合には完全覚醒をすることが必要となります。頭高位に保ち、従命が完全に取れることを確認してから抜管するようにしましょう。
⑥ 術後は必要に応じて経鼻エアウェイを使用する:酸素化の様子を見て必要なら使用するようにしましょう。必要であればCPAPなどによる換気の補助も考慮すると良いでしょう。

③ ライン、カテーテル

肥満で特に問題になりやすいのはラインを取ることができないことや、硬膜外麻酔、脊椎麻酔が施行困難なことです。

静脈ライン:吸入麻酔を使用すると血管が膨らむので多少は取りやすくなりますが、フルストマック扱いのため緩徐導入をすることもできません。肘窩は意外と取りやすいことがありますのでまずはそこを狙っても良いでしょう。また、肥満があると循環血液量が増加しているため、案外下肢に良い血管があることがあります。下肢で導入してから上肢のルートに切り替えても良いでしょう。いずれにせよエコーは用意しておいた方が良いでしょう。無理なら最初からCVラインを確保するようにします。
動脈ライン:高血圧を合併するため意外と触れることもありますが、エコーガイド下で確保するようにした方が良いでしょう。なお、マンシェットによる血圧測定では脂肪の巻き込みによって血圧が高く表示されることもあるため、動脈ラインとの実測値と比較してギャップが出やすいのも特徴です。
硬膜外麻酔・脊髄くも膜下麻酔:皮膚から硬膜外腔や髄腔への距離が長いため、最初から長めの針を用意しておくと良いでしょう。可能ならCT画像をみて予め距離を予測しておく方が楽です。ただし、脂肪による摩擦が多く、指先の感覚が狂わされやすい事には注意が必要です。指先感覚を過信せず、丁寧にするようにしましょう。なお、腹圧の上昇により硬膜外腔やくも膜下腔が狭くなるため、局所麻酔の量は2,3割程度少なめでも効果が出ることが多いです。これらの手技に際して脂肪の量は関係ありませんので、体重に惑わされないようにしましょう。

④ 薬剤の投与量について

薬剤の中には脂肪に分布しやすいものや脂肪に分布しにくいものがあります。脂肪に分布しやすいものは肥満であっても体重を目安にして投与すればよいのですが、脂肪に分布しにくいものは体重を目安にすると過量投与になってしまいます。その場合は理想体重を目安としましょう。それぞれに薬物の特性を理解し、使い分ける必要があります。
吸入麻酔は%なので適正投与量は体重によって変わらないですが、デスフルランが使えたら蓄積しにくく使いやすいでしょう。

また、投与量がよくわからない時には理想体重に合わせておき、必要に応じて適宜追加するようにすれば良いでしょう。

★測定体重に従うもの
プロポフォール、チオペンタール、スキサメトニウム

★理想体重に従うもの
※補足:BMIが高いと言っても脂肪が多い人やマッチョな人と種類があるので、筆者は筋肉が多いと思う場合には測定体重に近く、脂肪が多いと思う場合には理想体重に近く投与しています。
ロクロニウム、ベクロニウム、レミフェンタニル、エフェドリン、フェニレフリン

★特殊なもの
フェンタニル:理想体重よりは多いが、測定体重よりは少な目にする。

  • 最終更新:2017-10-09 20:52:23

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