導入薬の違い

※研修医向けた詳細な麻酔マニュアル




1.導入薬の違い概要

※禁忌の項目について「この薬剤への過敏症」は当たり前なので省略しています。
薬剤名 概要
プロポフォール

0.20~0.25mL/kg
静注
投与注意:妊婦(胎児移行あり)、ICUにおける小児への投与、卵・大豆アレルギー(添加物に卵・大豆の油を使用)
GABA-A作動薬の一種。作用発現が早く、副作用も少ない為使用しやすい薬剤。恐らく最も使用されている導入薬。
TIVAで使用でき、蓄積しにくいのも利点。脳圧を下げるため脳外科で使用しやすいのも魅力の一つ。
ただし、末梢からの投与時に血管痛がほぼ必発する。また、循環抑制作用と末梢血管拡張作用が強いため心機能が下がっている患者では重篤な低血圧を生じる可能性がある。そのような症例では使用を避けるか、投与量を減らす必要がある。また、ICU管理を行う場合にはプロポフォール注入症候群に要注意。
チオペンタール

5mg/kg
静注
投与注意:急性間歇性ポルフィリン症(症状増悪)、アジソン病(高K血症の増悪)、重症喘息(喘息発作の誘発)、
GABA-A作動薬の一種。効果発現が非常に早く、使用しやすい薬剤の一つ。プロポフォールと比較しても使いやすい。
血圧の減少は多少あるもののプロポフォールほどではない。脳圧を下げる効果もあるため、脳外科では使用しやすい。また、小児にも使用可能であり、妊婦でも最低量にすることを条件に使用できる。抗痙攣作用もある為、痙攣の既往がある場合にも使いやすい。
強アルカリ性であるため、ルートが漏れると対応が大変である。確実に入っているルートを使用すること。また、疼痛閾値を低下させる欠点もある。
ミダゾラム

0.15~0.30mg/㎏
緩徐静注(1分以上)
妊婦(胎児移行あり)、緑内障(眼圧の上昇)、重症筋無力症(症状増悪)、HIV薬の内服(血中濃度の上昇)、その他複数の薬剤との相互作用(CYP3A4代謝のため)
GABA-A作動薬の一種。鎮静薬として内科で活躍する事も多い薬剤。
効果発現が遅く、効果が切れるのも時間がかかるため、導入に時間がかかるだけでなく、短時間手術だと術後に醒めないこともある。フルマゼニル(アネキセート)という拮抗薬もあるが、フルマゼニルの方がアネキセートよりも半減期が短く、一度覚醒した患者が再入眠する可能性もある。さらに、薬剤の相互作用も多いため、一部の抗真菌薬や抗生物質、抗癌剤、さらには術中も使用する可能性があるCa拮抗薬やベラパミルの作用増強も生じる可能性がある。
循環抑制作用が弱いため、麻酔導入では循環リスクの高い患者に使用されることが多い。蓄積性も挿管したままICU入室するのであれば大きな問題にはならない。健忘作用と抗不安作用が強いのも特徴だが、麻酔ではあまりメリットにはならない。呼吸抑制が強い欠点はあるものの、静脈麻酔では使いやすいかもしれない。
ケタミン

1~2mg/kg
緩徐静注(1分以上)
脳圧の上昇(脳圧を上昇させる)、肺高血圧(肺血管抵抗を増大させる)、痙攣の既往(痙攣を誘発する)
NMDA受容体拮抗薬。解離性麻酔薬とも呼ばれる。2007年から麻薬指定されているがオピオイド受容体作動薬ではない。心不全患者にはミダゾラムと同時に使用する事も多い(ドルケタ、下記)。
その他の麻酔薬は全体的に血圧を低下させる傾向にあるが、ケタミンだけは上昇の方向に持っていく。なので心機能が低下している場合にも使いやすいが、肺高血圧を増悪させる点には注意が必要。また、心筋酸素需要を増大させるため、虚血性心疾患に対しては増悪方向に働くこともある。鎮痛作用も強い。
脳圧を上昇させるため脳外科の手術では使いにくい。悪夢や嘔気などを誘発することでも有名。

2.導入薬の使い分け

特にリスクのない患者では施設ごとに決定してプロポフォールかチオペンタールを使用していることが多いと思います。
これはどちらで良いでしょう(リスクがないのであれば当然ですが)。
以下、問題点に応じて使用する薬剤を変更することになります。静脈麻酔のリスクが高い場合には吸入麻酔薬による導入を考慮しても良いでしょう。
リスク名 概要
小児 一般にはラボナール推奨。1歳未満では静脈投与せず吸入麻酔による導入を行っても良い。
プロポフォールはICU管理では小児(15歳以下)に使用してはいけないが、麻酔導入では使用可能。ただし、敬遠される傾向もある。
ドルミカムは低出生体重児への急速静注で重症低血圧や痙攣発作が報告されているため、避ける。
妊婦・授乳婦 ラボナール推奨。
プロポフォールは胎児や乳汁への移行があり、心抑制などにより最悪胎児死亡や乳児死亡に至る危険性もある。
ドルミカムも胎児移行や乳汁移行があり、口唇裂のリスク上昇や胎児の循環異常を生じる事もある。
喘息 重症の場合ラボナールは禁忌のため避ける。
大豆・卵アレルギー プロポフォールは避ける。それ以外は問題なし。
なお、色が似ているため牛乳アレルギーでも避けると思われていることがあるが、牛乳アレルギーなら問題なく使用してよい。
急性間歇性ポルフィリン症
アジソン病
禁忌のためラボナールは避ける。
緑内障
重症筋無力症
ミダゾラムを避ける。
抗HIV薬
一部の抗真菌薬
一部の抗生物質
Ca拮抗薬
ベラパミル
ミダゾラムで相互作用による効果増強。ミダゾラムを使用した場合には適応をしっかり考慮すること。
脳外科の手術 プロポフォール、ミダゾラム推奨。
ケタミンは脳圧上昇の可能性があるため避ける。
心不全 ミダゾラム+ケタラール推奨。
なお、ミダゾラム+ケタラールは心不全には使いやすいものの、虚血性心疾患を増悪させる可能性がある点には気をつける。プロポフォールを低用量で用いた後、吸入麻酔薬を用いても良い。
虚血性心疾患 プロポフォール推奨。ただし、心不全が合併している場合には低血圧を生じる可能性があるため注意が必要。少量投与し吸入麻酔で寝かせるのも良い。
ラボナールでも大きなデメリットはないが、低血圧には注意が必要。ドルミカム+ケタラールの場合虚血性心疾患を増悪させる場合があるので注意が必要。

3.ミダゾラム+ケタミン(ドルケタ)

ミダゾラム2~5mg+ケタラール0.5~1.0mg/kgを緩徐静注(1分以上かけて)する。
ケタミンは入眠の際に幻覚が生じることがあるとされていますが、ミダゾラムと併用することでそれを抑えることができるとされています。そのため、麻酔導入ではミダゾラム+ケタミンの併用麻酔をする事も多くなっております。
主に心不全があり、プロポフォールやラボナールが使いにくいような状況で選択されることが多いです。

  • 最終更新:2017-03-15 16:43:44

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