導入

※麻酔科研修で必ず持って欲しい一冊です

※このサイトは要点のみを記載するようにしています。きちんと勉強するには成書を参照することを強く勧めます。


0.入室から手術開始までの基本手順

以下の手順で導入を行っていきます。
以下の手順は状況や病院の習慣など、ケースバイケースで変わる事もあります。
(※)の部分は急速導入、緩徐導入、迅速導入、意識下挿管のうち、対応するものを行います。

・患者確認を行い、入室をする。
・麻酔チャートに「入室」の記載をする。
・患者をベッドに寝かせ、服を脱がせる(男性麻酔科医の場合患者が女性なら看護師に任せる)
・モニターを付けていき、バイタルの確認を行う(心電図、血圧、SpO2など)
・十分に酸素化したことを確認したら、導入を行う(※)
※導入に使用する薬剤は導入薬の違いのページを参照してください。
・挿管したら麻酔器に接続し換気ができることを確認する(胸の動き、チューブの曇り、etCO2の波形など)
・換気を確認したら聴診を行い、テープで挿管チューブの固定を行う(施設によっては仮固定を先に行うこともある)
・聴診で両肺換気を確認し、ベンチュレーターに乗せる(麻酔器を自動モードにする)。
※大体volume control(VCV)で換気量体重×8、RR10、I:E=1:2、PEEP4程度に調整すればよいでしょう
・鎮静薬濃度、酸素濃度を適正に設定し、抗生剤を開始する(腹伏位になる時などは無酸素時間が長くなる可能性があるので酸素濃度は100%のままにしておく)
※セボフルランは低流量麻酔でソーダライムと反応しコンパウンドAという腎有害物質を作るため、3L/min以上の流速が必要となりますが、デスフルランはその限りではありません。一般にセボフルラン3L/min、デスフルラン1.5~2L/min程度に設定し、酸素濃度を40%程度(あるいは酸素:空気=1:2)にするとよいでしょう。
・アイパッチをする
・必要な点滴が残っている場合は確保する
・マーゲンチューブを入れる。
・外科医に声をかけて必要なら体位の調整をする。
・カルテ記載をする。

1.急速導入

rapidと呼ばれる方法です。
最も基本的な麻酔法です。
特にリスクがなく、静脈確保が可能な場合に行います。
酸素化が十分できる上、筋弛緩も十分に聞かすことができ、理想の条件で挿管を行うことができます。
以下に示すのは一例です。

① 静脈ルートの確保
② マスクをあて6L/minの酸素を吹き流しにし、十分に酸素化できたことを確認する 
 →これにより無酸素でも8分程度もつようになる。
③ 静脈ルートからの麻酔薬の投与(鎮痛、鎮静、筋弛緩など。導入量は維持ページ参照。)
④ 意識消失を確認したら、必要な場合には吸入麻酔を開始し、マスク換気を開始
⑤ 筋弛緩が十分に効いたことを確認したら挿管を行う。

2.緩徐導入

slowと呼ばれる方法です。

吸入麻酔薬を用いてマスク換気を行い、眠らせてからルートの確保を行う方法です。
小児などでルート確保が困難な時や、血管が細く、落着いてルート確保が難しい時に用いる麻酔法です(吸入麻酔薬で血管も膨らむのでルート確保の難度も下がります)。
マスク換気を行う者と、ルート確保を行うもので、最低2人は必要となる上、フルストマック(妊婦、重度肥満、胃内容物貯留)では禁忌となります。
また、気道確保していない状態でマスク換気を続けることになるため、リスクは高いです。さらに、セボフルランはなかなか強烈な香りがするために、注射より辛いと訴える小児もいます。
デスフルランは気道刺激が強く、緩徐導入には基本的に用いてはいけません。

★ 方法1:一般的ですが5%セボフルランを一気に吸わせるため患者の侵襲は大きいです。方法は単純なので、慣れない内や患者や患児が暴れる場合にはこちらの方がやりやすいでしょう。
① 酸素:笑気=1:2 セボフルラン5%を流し、マスクを密着させつつ吸入させる。
→ この方法だと、笑気が体内に取り込まれるおかげで肺内のセボフルランの濃度が上昇するため、入眠が早くなります。
② 意識消失を確認したらマスク換気を行い、自発呼吸を徐々に消していくか、補助換気を行う。タイミングを見て純酸素に変える。
③ 介助者がルートを確保する。
④ 確保したルートから薬剤を投与する(鎮痛、筋弛緩など。投与量は維持ページ参照)
⑤ 筋弛緩が十分に効いたことを確認したら挿管を行う。

★ 方法2:笑気をうまく利用し本当にslowで寝かす方法です。笑気で鎮静をかけてからセボフルランを使用するので患者としては楽な反面、時間もかかる(5分程度)し調節も難しいです。

① 酸素:笑気=1:2にして吸入させ、マスクを密着させる。
② 2分程度吸入していると目が段々とトロンとしてくるのがわかる。呼気の笑気が60%程度になり、患者の瞬きの回数が減少していると判断したら、セボフルランを0.5%程度から流し始める。
③ 1分程度様子を見て患者に苦しそうな様子がないことを確認したら少しずつセボフルラン濃度を上昇させていく。1%でも大丈夫だった場合、5%に一気に濃度を上昇させる。
※弱めの鎮静から少しずつ強化するので興奮期に入り患者の手足が大きく動くことがあります(それを避けるため一気に濃度を上昇させます)。手足の大きな動きはむしろもう眠るサインだと捉え、セボフルランを高濃度で維持しましょう。大声を出したり泣いたりする場合は鎮静が甘いだけです。セボフルランを強化して一気に寝かすか、セボフルランの濃度を減らしてもう少し鎮静がかかるのを待つかの判断が必要となります。
④ 意識消失を確認したらマスク換気を行い、自発呼吸を徐々に消していくか、補助換気を行う。タイミングを見て純酸素に変える。
⑤ 介助者がルートを確保する。
⑥ 確保したルートから薬剤を投与する(鎮痛、筋弛緩など。投与量は維持ページ参照)
⑦ 筋弛緩が十分に効いたことを確認したら挿管を行う。

3.迅速導入

crushと呼ばれる方法です。
Rapid sequenceとも呼ばれます。この場合rapidと混同しないようにしましょう。

フルストマックの時に行う挿管方法です。
誤嚥のリスクがあるためにマスク換気をせず、そのまま挿管を行います。輪状軟骨圧迫を行う場合には介助者が必要となります。
酸素化が不十分になりやすく、リスクの高い挿管であるためか、麻酔科医によって好みも別れやすいです。
迅速導入を行う際には、前投薬として2時間前にガスター20mgの内服をするか、不可の場合には点滴静注しておくと誤嚥のリスクを下げることができます。

① 静脈ルートを確保
② 酸素マスクを当て、酸素化をしっかりする:ヘッドアップ25度することで、肺が広がり無酸素可能な時間が伸びる。マスクはヘッドバンドなどでフィッティングさせても良い
③ いつでも吸引できるように準備をしておく。胃管があるなら予め吸引しておく。
④ 麻酔薬を投与する(※1)。投与量は維持ページ参照。
⑤ 介助者が投与開始後から軽く輪状軟骨圧迫を開始し、入眠を確認したら強めに圧迫する(3kgの強さが適正とされる)
⑥ 筋弛緩薬投与後適切な時間が経過したら挿管を行う(※2)

(※1)
この際に、どの薬剤を使用するのかについては意見が分かれるかと思います。

鎮痛・鎮静:基本的には、については普段使用している薬剤でよいと思います。頭蓋内圧の上昇や気管支攣縮の予防のため、静注用リドカイン2%を1.5mg/kg静注すべき、という意見もあります。同様の理由で、予め1%キシロカインを喉頭に噴霧してもよいかもしれません。
筋弛緩薬:通常の投与でエスラックス60秒、スキサメトニウム45秒と、ややスキサメトニウムの方が効果発現が早いため、迅速導入ではスキサメトニウムを好んで投与する人もいる。エスラックスを使用する場合には用量を1mg/kgと高めにして用いること、あるいは酸素投与の段階で0.2mg/kg程度を予め加えておき、導入の時に残りを入れると効果発現を早めることもできる(プレクラリゼーション)。また、プレクラリゼーションを行った状態でスキサメトニウムを投与すると筋攣縮が抑えられるため、より高容量で用いることもできる。

(※2) 
迅速導入では基本的にマスク換気を行わないが、最初のトライで挿管が上手くいかない時にはためらわずにマスク換気を行うことが重要である。

4.意識下挿管

フルストマックで迅速導入でもリスクが高いと思われる時や、挿管困難が予想され、麻酔薬の投与自体にリスクがあると判断される時に選択される方法です。
意識がある状態で挿管をしてから寝かせます。他の方法ではルート確保、吸入麻酔程度の侵襲しかありませんが、意識下挿管は覚醒状態から挿管をするため、侵襲が非常に強くなっています。
その方法論についてはほとんど統一されたものがありません。書籍で比較しても全くのバラバラです。
迅速導入同様、フルストマックの時にはガスター20mgの内服や点滴投与をしておいても良いでしょう。
ここではエッセンスのみを記載し、細部は補足程度に記載しようと思います。

① 静脈ルートを確保
② いつでも吸引できるように準備をしておく。胃管があるなら予め吸引しておく。
③ 2%キシロカインビスカスがあれば、5~15mlを口腔に含んでもらい、少しずつゆっくりと呑み込むようにしてもらうようにし、口腔内に麻酔を効かせる。
④ 口から4%キシロカインまたは8%キシロカインを5回程度噴霧する。気道にしっかり入るように、噴霧のタイミングに合わせて吸気してもらう
⑤ 必要に応じて意識消失をしない程度に鎮静薬剤を投与する(※1)
⑥ 鎮静薬剤の効果が出たら挿管を行う(※2)

(※1)
 鎮静薬剤の種類についても好みが分かれると思います。
 一番使いやすいのはデクスメデトミジンだと思われます。ただし、効果発現が遅いので緊急手術では使いにくい印象です。使用時は4μg/mlに調整し、1.5ml/hrで10分投与の上、0.175ml/hr(上限量)で投与すると良いでしょう。
 個人的にはミダゾラムを使用している人が多いイメージです。1~2mg程度を投与し、呼吸抑制を起こさない程度に鎮静をかけるようにしましょう。
 慣れているならプロポフォールでも構いませんが、2ml程度のボーラスにする科、0.03~0.30mL/kg/時の持続にするのが安全だと思われます。
 あるいはレミフェンタニルを100μg/mlに調整して、0.3ml/kg/hr程度で持続投与するのも一手かもしれませんが、鉛管現象や喉頭痙攣のリスクが増大するため、注意が必要です。

(※2)
挿管の方法も好みが分かれると思います。
個人的にはファイバー挿管が最も低侵襲ではないかと思いますが、喉頭鏡やエアウェイスコープなどを用いることも禁忌というわけではありません。

  • 最終更新:2018-01-12 23:13:48

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