僧帽弁手術の基本

※本格的な心臓麻酔をしたい人に



概要

僧帽弁への弁膜症がある場合、大まかに置換するか形成するかの選択が必要となってきます。
一般に僧帽弁形成術の方が、置換術に伴う左室破裂などの致命的な合併症が生じる可能性が低いことや、左室機能の解剖学的連続性を保てることなどにより手術死亡率が低くなるとされています。また、長期予後や再手術のリスクも一般に低くなるとされています。
ここでは僧帽弁形成術(MVP)と僧帽弁置換術(MVR)について概説します。

基礎知識

まず、僧帽弁は前尖と後尖の二つの弁から成ります(心臓の弁についてページ参照)。
前尖部分は心臓の中心に近く、強い繊維状構造に支えられているため、比較的強固な構造をしています。一方で、後尖は左室の収縮や拡張に伴い、最大40%程度伸縮します。なので、後尖の基底部は弁輪拡張を生じやすい構造となっており、僧帽弁の弁輪拡大というとほとんど後尖が原因となってきます。弁輪拡大が生じれば僧帽弁が前尖と後尖が十分に接触することができなくなり、逆流の原因となります。

また、この二尖弁は腱索によって支えられており、逸脱しないようになっています。腱索の進展や断裂が生じれば当然ながら血液の逆流が生じることになります。あるいは左室拡大によって心筋により腱索が引っ張られ、僧帽弁の接合不全になる可能性もあります。同様に虚血性心疾患などで検索の基底部を支える心筋に異常が生じることでも僧帽弁逆流が生じる可能性があります。

その他、感染性心内膜症などによる弁破壊でも僧帽弁逆流が生じる可能性がある。

僧帽弁へのアプローチ法

僧帽弁にアプローチする方法は以下の通りとなっております。

分類(クリック) 概要
右側左房切開法 最も一般的な方法。心房間溝に沿って左房を切開する。左房の大きさによっては視野の確保が難しいという欠点がある。
経心房中隔切開 右房を切開してから心房中隔を切開し、僧帽弁にアプローチする方法。右房の方が左房の前面に位置するため視野の確保がしやすい。心房中隔欠損症が存在する場合にはついでに修復もできるため、選択しやすい。
Septal-Superior Approach 経心房中隔切開でも視野の確保が難しい場合に、経心房中隔切開からさらに左房の方まで切開を広げる方法。最も視野が確保しやすいが、切開範囲が広く、侵襲が大きい。

僧帽弁形成術

僧帽弁形成術の実際的な手技

ここでは実際に僧帽弁にアプローチした後の方法について記載します。
実際には以下を組み合わせて行うことも多いです。

・水試験
水試験とは左室を生理食塩水や心筋保護液などで充満させて逆流の場所や状態を確認する方法です。初期の状態を確認したり、形成途中で問題点を明らかにするために使用したりします。

・人工腱索
この方法は逸脱や断裂などにより変位した僧帽弁の位置を調整する方法です。特に前尖の逸脱に対して行うことも多いです。
乳頭筋と逸脱した弁尖にゴアテックス糸をかけ、弁尖との距離を調整します。この主義を行う場合には水試験を頻繁に行い、最適な距離を模索していきます。

・四角切除術
逸脱部分を中心に弁尖から弁輪にかけて短冊状にカットし、生じたギャップを縫縮、閉鎖する方法です。当然原則的に弁輪拡大を生じやすい後尖に対して使用することになります。ただし、弁輪部は圧力がかかりやすいため、増強をするために人工弁輪を縫い付けます。あまりに広範囲に行うと、前尖にかかる圧力が増大し、SAMの原因になることに注意が必要です。

・弁輪縫縮術
人工弁輪を縫い付けて弁輪の前後径を減少させるとともに、将来的な弁輪拡大を防ぐ方法です。
人工弁には硬いものや柔らかいものなど種類があり、必要に応じて使い分けることになります。四角切除術と同様に小さすぎる弁輪を用いるとSAMの原因になることがあります。

・Alfieri stitch
僧帽弁のA2とP2を縫い付けることで僧帽弁の逆流を防ぐ方法です。主にA2とP2の間の逸脱がある場合に用いられます。
簡便でカテーテル治療への応用(Mitral clip)も期待される一方で、弁が真ん中で分断されることにもなるため、MSの原因になることも危惧されています。また、この手技により血流の回転の向きが変化し、energy lossが増加したとの報告もあります。

僧帽弁形成術後TEEによる評価

人工心配から完全に離脱する前、自己心拍を再開したあたりでTEEによる確認を行います。
最大逆流口面積が2cm2以上の場合、術後の慢性期に中等度以上の逆流が再発する可能性が高いとされており、再度MVPを行うか、弁置換を行うかの選択が必要となります。

僧帽弁置換術

人工弁の選択

分類(クリック) 概要
機械弁 耐久性は高いが、血栓形成防止のためにワーファリンを投与し続けなければならない。高齢でない限りはこちらを選択することが多い。
生体弁 一定期間経過すればワーファリンを内服しなくてもよくなるが、10年程度で生体弁機能不全(PTF)になる可能性がある。

弁置換の手技

僧帽弁を切除し、人工弁を専用の器具で縫着していく。

  • 最終更新:2018-07-04 17:41:27

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