カリウム異常

※術中術後のトラブルで慌てないために



概要

言わずと知れたKの数値の異常についてです。
腎臓ではNaとKの交換輸送でKの排泄が行われており、細胞でも多くのチャネルがKの取り込みを行っており、細胞内K濃度は血液のそれの35倍にものぼります。
カリウム異常は電気伝導系に強くかかわっており、特に心臓の電気伝導系の障害が直接的に命に関わってきます。

血中Kが5.5を超えてくると高カリウム血症とされます。覚醒時には痺れ感や脱力などがありますが、麻酔中は専らルーチンの血ガス検査や心電図モニターで判断することになります。
大体K濃度が7を超えてくると、テント状T波が出現し、さらに進むとP波の消失やwide QRS、除脈へ移行し、最終的にはVfを招くことになり、死に至る可能性もあります。
血中Kが3.5以下だと低K血症となります。
大体K濃度が2.5を切ってくると、T波の低平化やU波の出現、それに伴うtorsades de pointesやVfを招くことになり、致死的になることもあります。

いずれも心電図が特徴的ですので、疑わしい場合には直ぐに血ガスを取るようにした方が良いでしょう。

K異常の原因

高K血症の原因

腎からの排泄障害 腎障害や偽性アルドステロン症などにより腎からKが排泄できない状態
K摂取過剰 輸血やカリウム負荷、溶血などで大量のカリウムが血中に入る病態。
細胞からのKの移動 アシドーシスやインスリン欠乏、ジギタリスの投与などで細胞からKが血中に流出した状態。
偽性高K血症 採血時の溶血やWBC、PLTなどの増加によって見かけ上Kが多く見える状態。この場合は病的意義はない。

低K血症の原因

※これについては日本心臓財団の出している図がわかりやすかったので引用します。
低K.jpg

対応策

高K血症

麻酔中の高K血症への対策は① inを減らす、② outを増やす、③ 細胞内に逃がす、④ その他 のいずれかになります。
長期的には「原因を断つ」事も重要ですが、麻酔中に目の前にある高K血症に対して原因を断つことで改善することは多くないと思われますので、基本的には対症療法になります。

① inを減らす
まず考慮することは輸液をK freeのものに変更することです。具体的には1号液または生食、ヘスパンダーなどになります。
最も安価で、意外と効果的ですので、少しでも怪しければ試してみても良いでしょう。
また、輸血などでカリウムを入れないといけないような場合にはカリウム吸着フィルターを使用するのも一手です。見たことがない場合には輸血部などに確認するようにしましょう。あるいは、きちんとしたセルセーバーではカリウムがほとんど含まれませんので、カリウムが高い内はセルセーバー血を優先的に使うのも一手です。

② outを増やす
ラシックスなどで尿量を増やすと自然とカリウムが尿中に排泄されて改善されることも多いです。あるいはK freeの輸液を多めに投与し、尿量を増やすことでも解消することができます。輸液が多めの時にはラシックス、足りない時には輸液負荷と考えると比較的簡単にやりやすい対策でもあります。
ただし、いずれも腎機能が正常であることが大前提なので、腎不全がある場合にはほぼ禁忌となることに注意が必要です。

③ 細胞内に逃がす
アシドーシスがある場合には以下の機序で血清Kが上昇していますので、アシドーシスを補正することでカリウムが正常化する可能性があります。
「増加したH+によるNa-H交換体が活性化→細胞内Na濃度低下→Na-K-ATPase活性の低下→血清K濃度上昇」

①②をトライしてアシドーシスの補正をしても効果がない場合、あるいは緊急で血中カリウムを下げる必要がある場合にはGI療法を考慮する必要があります。これはインスリン製剤の使用で細胞がカリウムを取り込むことを利用するもので、GI療法と呼ばれます。

★GI療法の方法
GI療法は要するに「インスリンと糖を大量投与してカリウムを細胞内に取り込ませる」方法なので決まったやり方はありません。以下に代表的なやり方を示しておきます。
なお、腎不全がある場合にはインスリンの分解が遅延し、低血糖に傾きやすいので注意が必要です。
また、血糖が250以上ある場合にはグルコースを投与しなくても良いとされていますが、低血糖のリスクを考えればグルコースの減量程度にとどめるのが安全でしょう。

配合 投与法
50%ブドウ糖500ml
+インスリン50単位
・持続投与用です。「50%ブドウ糖200ml+インスリン20単位」などでも構いません。縦ポンプなどで時間10ml/hrで開始し、適宜10ml/hrずつ増減して行きます。インスリン投与量が少なく、調節性もよく、緩徐に増減できるため、安全性が高いのが特徴です。急がない場合やGI療法に慣れない時にはこの方法を取ると良いでしょう。また、ブドウ糖が多めですので、低血糖よりも高血糖になりやすくなっています。
50%ブドウ糖50ml
+インスリン10単位
急速投与用の配合です。30分以上かけて投与します。急速にカリウムが低下しますが、75%程度の確率で1時間程度後に低血糖を生じるとされています。特に麻酔中は血糖値をしっかりと観察する必要があります。カリウムの変化としては心電図もモニタリングの一環となります。GI後に10%ブドウ糖液を50~75ml/hrで投与しても良いとされています。また、完了してから数時間程度で細胞内からカリウムが再分布してくる可能性があるので注意が必要です。
10%ブドウ糖500ml
+インスリン10-20単位
上記同様に急速投与用の配合で、60分以上かけて投与します。上記に比べればマイルドですが、同様に低血糖やカリウム再分布の可能性がありますので、観察が必要です。。

④ その他
他の方法としてカルチコールを投与するという方法もあります。
この方法では直接的に高K血症の解消はできませんが、心筋のカリウム閾値を低下させることで、高K血症による不整脈を生じにくくします。急ぐ時には使いやすい手です。

低K血症

対応策としては高K血症の逆となります。
高K血症と同様、麻酔中に原因療法で治療するのは難しく、対症療法がメインとなるでしょう。術前から認められるものであれば、状態を落ち着けてから手術をすることになります。
対症療法の方向性は高K血症とは反対に① inを増やす、② outを減らす、③ 細胞外へ逃がす となります。
KClの補正をする際、麻酔中であれば心電図が血中カリウム濃度の指標になりますので、注意深く確認をするようにしましょう。

① inを増やす
急がないのであれば輸液を3号液に変えるなどして対応するとよいでしょう。
急ぐ時にはKCl20mEqを500mlの生食に加注し、1時間以上かけて投与するようにしたら良いでしょう。
言うまでもありませんが、急速投与をすると高K血症によるVfを誘発する可能性がありますので、静注は禁忌です。

② outを減らす
薬剤に頼らずとも輸液量を減らして尿量を減少させるとカリウム濃度は自然と上がってくることが多いです。まずは輸液を絞ることを考えましょう。

薬剤に頼る場合、K保持性利尿薬であるスピロノラクトンは、効果的にカリウムを上昇させますので、術前にわかっている場合には2時間以上前に内服しておくのも一手です。
同様の作用機序のもので、ソルダクトンが静注用薬剤として存在していますので、術中に補正するために使用することもできますが、添付文書上開心術および開腹術にしか適応はありません。アルドステロン症が原因と思われる場合には術式に関わらず適応がありますので、使用してみても良いでしょう。

③ 細胞外へ逃がす
アルカローシスがある場合にはややアシドーシス側に傾けることでNa-K-ATPaseを活性化させ、血中カリウム濃度の上昇をさせることができます。術中に簡便にやる方法としては、敢えて換気量を落としCO2を貯留させることで呼吸性のアシドーシスを作ることでしょうが……カリウム補充は比較的簡単ですので、他の方法と比較して特にメリットはないと思われます。

  • 最終更新:2017-03-15 17:05:46

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