褐色細胞腫

※合併症麻酔に一歩深い知識を



分類

※褐色細胞腫の基本分類
ノルアドレナリン型 ノルアドレナリンを分泌するタイプ。副腎型でもこのタイプが多いが、副腎外の場合さらにこのタイプが多い。
アドレナリン型 ノルアドレナリン型からPNMT酵素の発現によりアドレナリンが作られるタイプ。

概要

カテコラミンを過剰産生・分泌する腫瘍ができるもの。
副腎の褐色細胞腫が90%以上を占めるが、体内の様々な部位に発生することがある。
主な症状は発作性高血圧、代謝亢進、発汗過多、頭痛であるが、高血糖や体重減少を合併することもある。
10%程度の確率でその他の腫瘍を合併することもある。

注意点

① 事前情報の入手

褐色細胞腫の性状によって術中管理も大きく変わってくることがあるため、以下の項目は必ずチェックしておくこと。

・アドレナリン型かノルアドレナリン型か。
・腫瘍の大きさ(腫瘍の剥離時間に関与)

② α遮断薬を内服する

プラゾシンなどのα遮断薬を術前2週間前から1~1.5mg/dayを分2か分3で内服開始し、6mg/dayまで増量する。最大量は15mg/dayである。デタントール(3mg/day分1から開始、3~9mg/day分1に増量)やカルデナリン(0.5mg/day分1から開始し漸増、最大16mg)でも代用できる
これにより血圧の変動幅の減少や安定化、減少している循環血液量の是正、発汗の減少、血糖コントロールの改善などが可能となっている。これにより50%程度あった死亡率が2%程度に減少したというデータもある。
アドレナリン型であればβ遮断薬も併用したほうが良い場合もあるが、β遮断薬の単独投与は血管収縮が強く出るため、禁忌である。
α遮断薬やβ遮断薬でバイタルが安定していれば予定手術をしても良い。
具体的には以下の基準に準ずる。

・手術前48時間の血圧がストレス環境下であっても165/90mmHg異常に上昇していない。
・起立性低血圧が存在するが、立位の血圧が80/45mmHg以下とならないこと。
・心電図上でST-T変化がないこと。
・心室期外収縮が頻発していないこと(5分に1回まで)。

③ 使用薬剤の注意

抗コリン薬(アトロピンなど)、ケタミン、ドロペリドール、ペンタゾシン、一部吸入麻酔薬(ハロタン、デスフルラン)、スキサメトニウム、パンクロニウム、プリンペランなどの薬剤は交感神経刺激作用があることから投与には慎重を要する。
プロポフォールは交感神経抑制作用が強いため使用しやすい。ただし、腫瘍摘出後に末梢が開くことで循環血液量が大きく変動する可能性があるため、BISの使用は必須である。
チオペンタールやチアミラールも交感神経抑制作用が強いため、投与しやすい。
セボフルランは交感神経抑制作用があるため使用できる。イソフルランは催頻脈性があるためやや不適。
フェンタニルは適するが腫瘍摘出後の低血圧を助長する場合があるので注意する。
β遮断薬でフィードバックが生じ、α刺激作用の増加を招くため、急激に血圧が上昇する可能性がある。

④ 術中管理の注意点

脊椎麻酔は腫瘍摘出後の血圧低下に対応出来ない可能性があるため不適。
血圧の変動が激しいため、観血的動脈圧測定はほぼ必須である。必要に応じて中心静脈ラインやスワンガンツカテーテル、経食道エコーなどを用意すると良い。

レミフェンタニルなどの使用で術中のバイタルは安定し、一見バイタルが安定しているように見えるが、カテコラミンの過剰産生を防げているわけではないことに注意する。
発作的なバイタルの変化に対して麻酔薬だけで対応出来ない場合が多く、α遮断薬などの降圧薬はあらかじめ準備しておく必要がある。
フェンタニルやレミフェンタニル、硬膜外麻酔などを使用しているときは腫瘍摘出後の低血圧を助長する可能性があるため慎重にモニタリングする。

⑤ 腫瘍摘出後

腫瘍摘出後には血管が開き、一時的に低血圧が出現することがある。
基本的には輸液負荷、昇圧薬の使用(ノルアドレナリンやドーパミン、フェニレフリンなど)で様子を見ると良い。
同時に低血糖も出現することがあるので、輸液は可能なら糖を含んだものにし、血糖もモニタリングする。

ノルアドレナリン型は大量の輸液負荷と一時的な昇圧で改善する事も多い。
アドレナリン型の場合には慢性的な心臓への負荷によって心不全を合併している場合があるため、輸液負荷が出来ない場合があるので注意する。その場合はドパミンやノルアドレナリン、ニトロールの投与を考慮する必要がある。リスクが高い場合にはIABPを用意しておいても良い。

⑥ 術後管理

術後は低下した血中カテコラミンが回復するのに時間がかかることがあるため、引き続き昇圧を続けると良い。
また、低血糖が生じやすいため血糖値の経時的に確認する必要がある。
術後数日でカテコラミンが回復してきて、3~10日程度で改善する事が多い。それでも高血圧が持続するときには腫瘍の残存も考慮する。

  • 最終更新:2018-01-24 18:35:52

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