統合失調症

※合併症麻酔に一歩深い知識を



分類

妄想型 妄想、幻覚が主体となるタイプ。早期痴呆と呼ばれたこともあり、中高年に好発する。薬の反応性は良好。
破瓜型 連合障害が主体で感情や自発的行動が低下し、廃人様になる。青年期に多いのが特徴。
緊張病型 筋緊張の亢進や興奮・昏迷などの症状が主体。
鑑別不能型 統合失調症だが、妄想型にも破瓜型にも緊張方にも当てはまらないタイプ。
残遺型 陰性症状が1年以上継続したもの。
単純型 破瓜型に類似しており、連合障害や自閉などの症状が主体。

概要

統合失調症は認知障害や自閉を特徴とし、思考や感情のまとまりがなくなり、幻覚や妄想など多様な症状を持つ代表的な精神疾患の一つです。
多くの場合従命が困難であり、麻酔自体よりもベッドの上に載ってもらったり、点滴のルートを確保するなど、麻酔の準備段階でのトラブルが生じます。
逆に手術時に安静にできないせいで、本来局所麻酔で行うべき手術が全身麻酔になることもありますし、そのような場合には呼吸機能検査などの術前検査に支障をきたす場合があります。

注意点

① 内服薬に注意

定型抗精神病薬、持効性向精神病薬、非定型抗精神病薬の3タイプの薬剤があります。
基本的には当日の朝まで薬剤は継続しますが、投与量が多い場合には担当精神科医と相談すると良いでしょう。
中止する場合には精神科の確認を取る必要があります。

② 投与に注意する薬剤

フェノチアジン系やブチロフェノン系抗精神病薬服用患者ではボスミンが禁忌となっております(α作用が遮断され、β作用が優位になるため、血管拡張が生じ血圧低下を生じる可能性があるため)。
硫酸アトロピンやスコポラミンは定型抗精神病薬の作用と重複するため投与を避けた方が良いとされています。可能ならエフェドリンやプロタノールで代用すると良いでしょう。
フェンタニルなどのオピオイド受容体作動薬は腸閉塞を悪化させる危険性が有りますので、可能な限り硬膜外麻酔などを選択します。ただし、疼痛ストレスが強い場合には悪性症候群や不整脈を誘発しやすいため、必要なら使用をためらってはいけません。

③ 錐体外路症状

抗精神病薬を内服しているため、その副作用として筋緊張異常、注視障害、舞踏病などの錐体外路症状が生じる場合があります。

④ 悪性症候群

抗精神病薬によりドパミンD2受容体機能低下が生じていた場合に、悪性症候群による高熱、意識障害、筋硬直、発汗などが生じる場合があります。
抗精神病薬の急激な増量や脱水・ストレス・内服中断、急激な体重減少後に生じる傾向があります。
麻酔中は特に脱水や疼痛刺激に気を付けた方が良いでしょう。また、悪性症候群は術後にも出現するリスクがありますので、周術期にも警戒が必要です。
ダントロレンは必ず用意しておくようにしましょう。(初回量40mg静注。改善認められない時は20mgずつ追加。1日総投与量は200mgまで)

⑤ 心電図異常

抗精神病薬には直接心筋障害の作用があります。
PR,QTの延長、T波の低平化、上室性頻脈、心室性頻脈、心房細動、房室ブロックなどが生じ、突然心停止することがあります。
心電図測定は必ず行う必要があります。

⑥ バイタルの変動に注意

パーキンソン病と同様、体温や血圧が変動しやすくなっております。
特に抗精神病薬によるα遮断作用があるため、薬剤の効果が不十分になる可能性があることに留意する必要があります。
急激な体温上昇では悪性症候群を疑いましょう。

⑦ 痙攣が生じやすい

統合失調症では痙攣の閾値が下がっており、術中の痙攣が非常に生じやすくなっております。
抗痙攣薬などはあらかじめ用意しておくようにしましょう。

⑧ 周術期の腸閉塞

抗精神病薬の副作用として腸閉塞があります。
可能な限り硬膜外麻酔などを使用するようにして腸管運動を避けるようにしましょう。

⑨ 抜管は慎重に

十分な鎮痛、呼吸の回復、精神状態の安定があることを確認してから抜管しましょう。
不穏になった場合にはドルミカムやラボナール、ペンタジンなどで様子を見ても構いませんが、これにより逆に不穏になる可能性があります。その場合にはセレネースやウインタミンなどの投与を考えましょう。できれば術前に投与されていたのと同じ系統が望ましいです。
必要なら状態が落ち着くまで人工呼吸下の管理を考慮しても良いでしょう。

⑩ 術後の管理について

経口薬は嚥下の回復を見てできるだけ早く開始しましょう。
麻痺性イレウスや心臓の状態の悪化、誤嚥などが生じやすいため、特に注意する必要があります。
特に疼痛の強い手術では悪性症候群のリスクも常に考える必要があります。

  • 最終更新:2017-06-08 23:03:25

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